【分析】 イエメン近海でタンカーが相次ぎ急旋回、フーシ派の「海上封鎖」警告受け

海上に浮かぶタンカーの画像を、青い太枠が囲んでいる画像。左上には「BBCヴェリファイ」のロゴがある
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トマス・コープランド、ジョシュア・チータム(BBCヴェリファイ)

イランの支援を受けるイエメンの反政府勢力フーシ派が20日、サウジアラビアに対する「海上封鎖」を発表した。それ以降、イエメン近海で少なくとも7隻の石油タンカーがUターンしていたことが、船舶追跡データで示された。

これらの船舶はいずれも、サウジアラビアの港を出入りしていたもので、海上封鎖が発表されると進路を急に変えた。

世界の海上貿易の約15%が通過する紅海は、エジプトのスエズ運河と、イエメンと「アフリカの角」の間に位置するバブ・エル・マンデブ海峡という二つの海上輸送の要衝を通じて、地中海とアデン湾を結んでいる。

アメリカ・イスラエルとイランとの戦争でホルムズ海峡が事実上封鎖され、湾岸地域からの石油・ガスの流通が大きく制限されて以降、紅海はサウジアラビア産原油の輸出にとって重要なルートとなっている。

米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」の中東プログラム責任者、ローズマリー・ケラニック氏は、紅海を通る輸送ルートが「世界市場への圧力を和らげる上で大きな役割を果たしている」と指摘。フーシ派が貿易をさらに制限すれば「価格は上昇するだろう」と述べた。

海事情報企業ケプラーによると、フーシ派が海上封鎖を発表する前日には、バブ・エル・マンデブ海峡を経由して船舶20隻が紅海に入り、22隻が紅海を出ていた。

ケラニック氏はBBCヴェリファイ(検証チーム)に対し、フーシ派が紅海やアデン湾で船舶を攻撃すれば、「サウジアラビアへ向かう船舶だけでなく、すべての国際的航行を停滞させることになる」と述べた。

ロイター通信が確認した勧告によると、同地域における欧州連合(EU)の海軍部隊「アスピデス」は22日、「イスラエル、アメリカまたはサウジアラビアの利害に関連する商船は、脅威レベルが低下するまで紅海およびアデン湾の通過を避ける」よう求めた。

フーシ派の海上封鎖警告を受けてUターンした船舶、ロドス号、ミカ号、ニュー・プライム号、リュウ・ジャン・コウ号の進路を赤線で示したサウジアラビア近海の地図

船舶追跡サイト「マリン・トラフィック」のデータによると、サウジアラビア産原油を積んだタンカー「ロドス」は20日夕、紅海沿岸のアル・ムアジズ港からインドへ向けて出港した。リベリア船籍の同船はバブ・エル・マンデブ海峡へと南下していたが、約9時間後にUターンし、北上を始めた。

リベリア船籍の石油・化学製品タンカー「ミカ」も20日午後、サウジアラビアのジザン港を出港して南下していたが、方向転換した。

船舶追跡データでは、紅海へ向かっていた少なくとも8隻の船舶も、南側からバブ・エル・マンデブ海峡に入るのをやめてUターンしていたことが示されている。

マーシャル諸島船籍の自動車運搬船「リュウ・ジャン・コウ」は、中国からサウジアラビアのジッダ港へ向かっていた。しかし、20 日にアデン湾で急旋回した。

中国を出発した香港船籍の石油タンカー「ニュー・プライム」も、20日にサウジアラビアへ向かう途中で引き返し、現在はアラビア海で待機しているもよう。

各船舶が進路を変更した理由を個別に確認することはできないが、イギリスの海上リスク管理グループ「ヴァンガード」は、「(進路変更の)タイミングは、(海上)封鎖が発表された時期と一致している」と指摘した。

BBCが確認した、20日に船主に送信された電子メールで、フーシ派は「サウジアラビアのいかなる港においても、船舶は貨物の積み下ろしが禁じられる」と伝えていた。さらに、船舶は「作戦範囲内のいかなる場所でも(攻撃の)標的となる可能性がある」とも書かれていた。

迷彩服に黒いヘルメット、ライフルを手にした複数の人物が、階段状の台の上に2列に並んでいる。顔は黒い布で覆われていて表情は見えない

画像提供, EPA

画像説明, フーシ派戦闘員がサウジアラビアへの抗議を示すため整列した(17日、イエメンの首都サヌア)

フーシ派はサウジアラビアの港に出入りする船舶を対象とした海上封鎖措置について、同勢力が支配するイエメン北西部の港湾や空港をサウジアラビアが封鎖したことへの報復措置だと主張している。

サウジアラビアはこの主張を非難し、サウジアラビアは「国際法に従い、自国船舶を守るために必要なあらゆる措置を講じる」と表明した。

イエメンは2014年から続く内戦で荒廃している。フーシ派は2014年に政府から首都サヌアを奪取した。2015年にサウジアラビア主導のアラブ連合がイエメンの正統政府の復権を目指して介入したことで、紛争は激化した。

フーシ派とサウジアラビアの間では2022年以降、非公式の停戦状態が続いていた。しかし先週、フーシ派は、サウジアラビアがサヌアの空港を空爆したとして、サウジアラビア南西部の空港に向けてミサイルを発射した。

フーシ派はこれまでにも、幅約32キロメートルのバブ・エル・マンデブ海峡における船舶の航行に深刻な混乱を引き起こしてきた。

2023年10月にパレスチナ・ガザ地区で、同地区の武装組織ハマスとイスラエルとの戦争が始まって間もなく、フーシ派はパレスチナ人を支援するためだとして、紅海とアデン湾を航行する商船への攻撃を開始した。こうした攻撃で計4隻の船舶が沈没し、1隻が拿捕(だほ)され、計9人の乗員が死亡した。ハマスはフーシ派と同様に、イランの支援を受けている。

米・イスラエルとイランとの戦争でホルムズ海峡が事実上封鎖されて以降、サウジアラビアは原油輸出量の70%超を、同国の東西を結ぶパイプラインを通じて、紅海沿岸のヤンブー港へ迂回(うかい)させている。

海事情報企業ケプラーと、海事分析プラットフォーム「シグナル・オーシャン」のデータによると、、ここ数週間に同港から出荷された原油は1日あたり約400万バレルと、1年前の約97万3000バレルから大幅に増加している。

ホルムズ海峡を迂回する、サウジアラビアの東西を結ぶパイプラインを赤線で示したサウジアラビアの地図

ケプラーのシニア石油アナリスト、ナヴィーン・ダス氏はBBCヴェリファイに対し、バブ・エル・マンデブ海峡が事実上封鎖された場合、サウジアラビアには、地中海を経由し、アフリカ南端をまわってアジアへと原油を運ぶという選択肢しか残らないと述べた。

ダス氏は、消費者は海上封鎖の影響をすぐには受けないとしつつ、イランとの紛争によって、世界のエネルギーシステムはこうした打撃に対してよりぜい弱になっていると付け加えた。「2週間、3週間、あるいは1カ月は耐えられるかもしれない。しかしその間にも、運賃やエネルギー価格の上昇が起き、それが消費者のエネルギー費用の上昇につながるだろう」。

紅海周辺を航行する船舶も、攻撃を思いとどまらせようとメッセージを発信している。これは、ガザ戦争をめぐりフーシ派が船舶を標的にして以降、同地域でよく見られるようになった動きだ。

マリン・トラフィックのデータによると、この海域で少なくとも50隻の船舶が、武装警備員を乗船させていると発信している。

危機管理会社EOSリスク・グループのマーティン・ケリー氏はBBCヴェリファイに対し、船長らは「フーシ派が状況を誤って解釈する」ことを恐れていると述べた。自分たちの船が「過去にサウジアラビアの港に寄港したことがあるため、攻撃されるかもしれない」と考えているのだという。

ケリー氏はまた、「これらの船舶の多くは非常に大型の原油タンカーなので、被害は壊滅的なものになると思う。(攻撃を受ければ)船上で死者が出ることはほぼ間違いない」とも述べた。

(追加取材:バーバラ・メッツラー)