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【解説】 容赦ない策士? 風見鶏? ダンスおじさん? イギリスのバーナム新首相とは
ローラ・クンスバーグ 「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」司会者
20日に第59代イギリス首相になったアンディ・バーナム氏(56)とは、どういう人なのか? 彼には、さまざまなレッテルが貼られている。
北の王。グレーター・マンチェスターの人気市長。首相を追い落とすため影で反乱を画策した、容赦ない策士。
ライブ好き。FCエヴァートンの大ファン。シーズンチケットを持っているほどのファンで、国家運営の責任者になっても、試合をスタンドで観戦したいと思っている。
詩が大好き。経験豊富な元閣僚。英ケンブリッジ大学の卒業生。
政治的な意見をころころと変える風見鶏……というのは、彼に批判的な人たちの意見だ。
家族が大の自慢の誇り高き父親。中道派。労働党による政権交代実現を祝うイベントでは、マンチェスターのバンド、ニュー・オーダーの「トゥルー・フェイス」を自ら選曲し、堂々と踊ってみせた。
このバーナム氏がどういう人なのか理解するために、数十年にわたり一緒に仕事をしてきた20人以上の人たち、つまり旧友やライバル、そして現職および元閣僚などに、話を聞いた。
バーナム氏は、イギリス政界では異例の存在だ。彼がサー・キア・スターマーを失脚させたと激怒する関係者でさえ、バーナム氏は親しみやすい、まともな人物だと認めているからだ。
しかし、果たして労働党の士気を回復させ、国が抱える深刻な問題に取り組むだけの経験と能力が、彼にあるのだろうか?
旧友の一人はこう話した。「彼は本当にいい奴だが、それだけの力量があるのかどうかは、何とも言えない。それが正直なところだ」。
今のイギリス政治は、混乱が渦巻く残酷な時代の渦中にある。その中でただ「いい人」だというだけでは、有能な首相にはなれない。
しかし、にっこり笑って冷酷に行動することもできる。そしてバーナム氏はどうやら、過去数十年来のイギリスでとりわけ優れた指導力を発揮した人物に、助言を求めたようだ。この優れたリーダーとは、首相経験者ではなく、サー・アレックス・ファーガソンのことだ。
マンチェスター・ユナイテッドFCの元監督が偶然、バーナム氏と遭遇したことがある。バーナム氏はその時、元監督を相手に政治について雑談したがったのだそうだ。
バーナム氏は、なぜ同じ労働党の首相経験者、トニー・ブレアとゴードン・ブラウン両氏の関係がこじれにこじれ、悪意ある情報漏洩が相次いだのかを知りたがっていたのだという。
もし自分がブレア氏だったら、「(ブラウン氏を)呼び出して、『こっちに着くのか着かないのか。着かないなら、さっさと出て行け』と言ったはずだ」と、バーナム氏は言ったのだという。実際に彼が使った言葉はもっと下品だったが、まあ雰囲気は伝わると思う。
バーナム氏の側近の一人は私に、いわゆる「ファーガソンのヘアドライヤー」が必要になるかもしれないと話した。ファーガソン監督は選手たちを至近距離で激しく叱りつけることが有名で、それが「ヘアドライヤー」と呼ばれたのだ。
バーナム氏の側近は、「ファーガソンのヘアドライヤーがいるかもしれない。今こそチャンスなので、『こちらに着かないなら、じゃあさよなら、お時間をどうも』といろいろな人に言う必要があるかもしれない」と私に話した。
別の同僚は、新政権の方向性を決めるのは自分だとバーナム氏は決意を固めているのだと話した。新首相は「あらゆる人や物事にかかわっていくつもり」のため、「政府内には彼のアジェンダ以外が入り込む隙間はなくなる」と、この人は予想している。
その証拠に、バーナム氏は北海での石油・ガスの新規掘削を許可するつもりのようだ。この方針は、スターマー政権のエド・ミリバンド・エネルギー相の意向に真っ向から逆らうものだ。ミリバンド氏は、スターマー首相に「もう時間切れだ」と告げることでバーナム氏を助けた閣僚の一人だったのだが。
これを事例に、バーナム氏の同僚は私にこう話した。「バーナムはまったく容赦しない。彼の首相就任を後押ししたのはエドなのに、最初の政策構想演説はエドに平手打ちを浴びせるような内容だった。バーナムは世間に対しては、にこにこしてかわいいぬいぐるみのような顔を見せているが、実際にはハンマーのようにとてつもなく冷徹だ」。
労働党が17日に開いた特別党大会は、和やかな雰囲気で、あちこちで「おじさんダンス」が見られた。しかし実際には、バーナム氏で大丈夫なのかと、その力量について党内でも深刻な疑問が出ている。
イギリス政界でのバーナム氏のキャリアは何十年も前に、イギリス政治の中心地、ロンドン・ウェストミンスターで始まった。大学卒業後、「タンク・ワールド」という雑誌など複数の業界誌で記者としてしばらく働いた後、労働党のテッサ・ジャウェル議員のもとでリサーチャーとして働き、政界入りのきっかけを手にした。
バーナム氏は党内で急速に頭角を現し、ブレア政権ではクリス・スミス文化相の特別顧問となった。2001年にグレーター・マンチェスターのリー選挙区で、下院議員に初当選した。
ブレア政権で閣外相として初入閣した後、ブラウン政権で財務首席政務次官、文化相、保健相を歴任した。
バーナム氏は人気者だったが、ロンドン政界を必ずしも居心地良く思っていなかった。
旧友の一人は、労働党が政治的に成功し、新世代に大きなチャンスが訪れた当時を振り返り、こう話した。「自分たちは北の田舎者だったのに、気が付けばなぜかウェストミンスターの狂った世界にいた。くらくらする経験だった」。
バーナム氏は党内で好かれていたが、薄っぺらく口先ばかりで中身がないという批判もあった。
金融危機の渦中で財務相を務め、バーナム氏の上司でもあったアリスター・ダーリング氏からかつて聞いた次の言葉を、私はずっと覚えていた。ダーリング氏は、親しみを込めつつ半ばうんざりして、私にこう言ったのだ。
「アンディ? 彼はまるで氷の上を走るトラックみたいだ」
バーナム氏は意見をしょっちゅう、くるくる変えるからだ。
バーナム陣営の仲間も、それは認めている。「彼は、自分が何者か、しっかり把握している。けれども、時にはそれが揺らぐこともある」。
閣僚の一人は、状況が厳しくなればバーナム新首相はぐらぐらするのではないかと心配している。
人気者でいたいというバーナム氏の欲求についても、閣僚の一人は話した。
「キア(・スターマー)はそういうことをほとんど気にしなかったが、(バーナム氏は)人に好かれることがとても好きだ。周りとつながりを作るのは大事だと、その点を彼は重視するだろうから、それは長所になる。しかし、周りに好かれたいという欲求は、首相としては雑音になりかねない。首相になれば人気を失うのは避けがたいことで、『好かれたい』という気持ちはその時には不安定化の原因になり得るからだ」
しかし、バーナム氏が信念を貫かないという批判を、いらいらと批判する人もいる。
「『風見鶏バーナム』などと言われて、うんざりした。彼は風見鶏なんかじゃない。5年前から変化した情勢を前に、姿勢を変える勇気があっただけのことだ」と、消息筋は話した。
バーナム氏を本当の意味で変えたのは、マンチェスターでの経験だったようだ。これについてはほとんどの人が口をそろえる。ウェストミンスター時代の記憶をもとにバーナム氏を語る人たちと、イングランド北西部での「バーナム2.0」時代を知る人たちとでは、話す内容が明らかに違う。
党首選に2度挑戦して失敗した後、ウェストミンスターを去ることは、志半ばの政治家にとって大きな決断で、賭けだった。しかし、彼を知る多くの人は、バーナム氏がこれによって解放されたのだと評価している。
閣僚の一人はこう説明する。「それを信じるか、それをネタに彼をからかうかはともかく、下院議員を辞めてマンチェスターに行ったことで、彼は自分らしくいられるようになった。これは本当のことだ。(ブレア政権が率先した労働党の)ニュー・レイバー時代、党内の同調圧力がどれほど強かったか、忘れてしまっている人が多い」。
グレーター・マンチェスターの市長として、バーナム氏は交通、医療、技能開発、教育といった分野で大きな権限を持つようになった。前任の市議会指導者たちが下した重要な決定を土台に、いろいろなことが前進しているという、進歩の感覚を地域にもたらすことに成功した。
マンチェスターでの実績は、世間の過剰な期待に必ずしも見合うものではなかったかもしれない。それでも、その政治的成功は目覚ましいもので、大事なのはどう投票するかではなく、どこに住むかだと、彼は確信するようになった。そのため今後も、「政党ではなく場所」というスローガンはよく耳にすることになるはずだ。
バーナム氏を支える一人は、これが同氏のトレードマークの一つだと私に話した。「いくつものチームを見事に率いるリーダーだった。そのチームには、地方議会の保守党の幹部も、自由民主党の幹部も含まれていた」。
「同じことを政府でも、あらゆる才能を内閣に取り入れて、できるはずだ。労働党内の派閥を重視していないし、党派を超えて働きたいと考えている。とにかく所属にこだわらない」
バーナム氏はまた、労働党議員たちの意見にもっと耳を傾けること、そして党内の特定の派閥をひいきしたり、他よりも優遇したりしないことを約束している。
別の支持者は、「党内でこれまでと違うやり方をしたいと言っているし、それは本人の本音だ。狭い仲間内だけで徒党を組むなど、彼は望んでいない」と話す。
確かにバーナム氏は表向き、労働党内の内紛には関わらないように長年努め、自分は党に忠誠を尽くすのだとアピールしてきた。しかし、それが常に良い結果につながったわけではなかった。
彼が初めて党首選に立候補した2010年、北アイルランドでのイベントで聴衆に向かってこう言った。「私は派閥主義の政治家ではありません。私はトニー・ブレアに忠実でした。ゴードン・ブラウンにも忠実でした。私は党に忠実です」。
これを聞いた党員の一人が、「そのせりふは考え直した方がいいかもしれない」と口を挟んだ。
バーナム氏が今回引き継いだ労働党は、分裂し、不和が渦巻いている。その党を立て直すのは、途方もない大仕事だ。
とはいえ、今の党内には期待感があふれている。党幹部の一人は私に、バーナム氏を取り巻く楽観的なムードは「まるで家族の結婚式のようだが、大事なのはその後どうなるかだ。アンディは誰にでも愛情を注ぐわけにはいかないので」と話した。
別の党幹部は私にこう言った。「下院議員は(党の立て直しに)真剣に取り組み、自分のエゴではなく、自分の議席を大事にする必要がある」。
野党リフォームUKは、労働党にとって明らかに大変な脅威だ。労働党が直面するこの課題がいかに重大か、党内にあらためて強調することで、党内の派閥争いを収束させることができると、バーナム氏の関係者たちは期待している。
バーナム氏はどういう党首になるのだろうか。支持者の一人はこう言った。「党員はアンディ・バーナムのクローンになる必要はないし、アンディの支持者になる必要もない。ただし、たとえチームのリーダーと意見が合わなくても、チームのメンバーはリーダーを支持すべきだと、彼はそう考えている」。
チームを率いて成功した経験は? バーナム氏にはある。政治家として自信はあるか? もちろん。明確な信条はあるか? それもイエスだ。ただし、その信条をもって、個々の具体的な決定事項にどう反映していくのかは、まだ未知数だ。
スターマー政権の閣僚の一人は私にこう言った。「バーナム氏は政治手腕と、人間関係の作り方が非常に上手だ。しかし、彼の政治プロジェクトについては? 我々はまだ学んでいる最中だ」。
別の閣僚は私にこう言った。「彼がどのような政治を追求するのか、はっきりしたことは分からない」。
別の党関係者はもっと率直に、バーナム氏のチームは政府の様々な分野で何をするつもりなのか「全く分かっていない」のだと、ついついもらした。
バーナム氏は当初、9月の首相就任を望んでいたのだ。それならば、準備のための時間がもっとたくさん取れたはずだ。
バーナム氏がどういう政治家なのか、私たちはよく知っている。市長として大成功を収め、人との交流を大切にするリーダーだ。カメラの前でもリラックスしていて、多彩な職務経験と確固たる信念を持っている。
しかし、だからといって、彼が確実に労働党を立て直すとは、決して保証されていない。ましてや、不機嫌な国民の繁栄を助けるなどという、途方もない課題の実現も、決して保証されていない。
閣僚経験者の一人は、バーナム氏のこれまでの立場と、20日以降に直面する課題の間に、どういう溝があるかを指摘した。「市長や閣僚として、アンディは物事を決めることに慣れている。けれども、首相となると、判断を求められる物事の規模や範囲の広さ、そして何よりペースが、これまでとは違う」。
別の党関係者は私にこう話した。「彼が市長という立場を超越し、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)後の低迷する経済を立て直し、労働党支持者が期待するような社会保障制度に予算をしっかり充てられるよう、イギリス経済を世界的競争力のあるものに変化させられるのかどうか。それは、まだ分からない。」
状況は厳しい。別の閣僚は「彼は、財政状況に苦労するはずだ。あらゆる決定によって、勝者と敗者が生まれてしまう。それに、彼に寄せられている期待はあまりに高い」と述べた。
国民は労働党に対していら立ち、まったく感心していない。そのことを、バーナム氏のチームは重々承知している。
「国民は今後、また考え直すかもしれない。それまでの猶予は6カ月か、8カ月くらいだ」と、閣僚の一人は話す。
別の閣僚は、スターマー氏が今回のような形で辞任に追い込まれたからには、「次の総選挙までに別の党首が誕生している可能性が十分にある」と心配している。
「支持率が低いからとスターマーを辞めさせたことで、我々は基準値をあまりに低く下げすぎた。そして、今度はアンディが自分に対する期待値をあまりに高くしてしまった。それが彼の戦略だ。いつも派手に登場するのが、彼の流儀なので」
バーナム氏は20日、首相官邸の住人となった。
当然ながら、まだ分からないことがたくさんある。特に、誰がどの閣僚の席に就くのか、そしてバーナム家の愛犬アクセルも首相官邸に引っ越してくるのか。その場合、猫のラリーの新しいライバルになるのかどうか。
しかし、ダウニング街で引っ越しトラックのエンジン音が再び鳴り響く中、バーナム氏の到着は労働党にとって「第一印象を良くする2度目のチャンス」だと、閣僚の一人は言う。
これは彼が何十年も切望してきた機会だ。そして私たちはまたしても、新しい首相を迎えた。